手鍋焙煎って?
普段生活していて「自分でコーヒーを焙煎する」という発想はなかなか生まれないと思います。
それは当然のことです。スーパーに行ってもコーヒーの生豆が売っているということは決してありません。売っているのはインスタントや焙煎済みのコーヒーです。コーヒーの焙煎とは何か特殊な装置やら、生産の難しさやら、生豆の仕入れるのは限られた人にしか出回らないのではないかといったふうに、私たちは無意識のうちに判断してしまっていると思うのです。かく言う私も1年前はそうでした。
しかし、これらの判断を勇気を出して私は全て否定したいと思います。コーヒーの焙煎には特殊で巨大な装置はいりませんし、思ったほど難しくありません。しかもネット通販の普及で、我々一般の人間でも簡単に生豆を選んで購入することができるのです。
- コーヒーが好きな方
- 料理が好きな方
- 試行錯誤が嫌いでない方
- より安く、おいしくコーヒーを楽しみたい方
ここでは、手鍋焙煎に興味を持たれた方に、考え方から具体的な方法などお伝えしていきます。
手鍋焙煎の魅力
少しの知識と費用、経験で、本当に誰でもコーヒーの焙煎ができます。長い目で見ると、焙煎されている豆を購入するより安くおいしいコーヒーを楽しむことができます。この片手鍋でコーヒーの焙煎ができてしまうのです。
これは本当に驚くべきことに、基本的に家にあるもので焙煎を行うことができます。にもかかわらずおいしくない訳ではありません。むしろ、市販で売られているものより格段とおいしいコーヒーを楽しむチャンスが生まれます。安くておいしい。これほど良いことはあるのでしょうか。
スーパーやコーヒー専門店、自家焙煎店などのコーヒーはどうしても大量に焙煎するため焙煎機もそこそこ大きなものになります(もちろん取り扱いの規模にもよります)。しかし家で新鮮なコーヒーを楽しむ分では100~200gの焙煎が丁度いいです(これももちろん人によりますが)。
ガラス蓋を使用することで、豆の状態が素早く確認できます。小型の手回し焙煎機などは、焼け具合(焙煎度合い)を確認するのが難しいものもあります。この点で、手鍋焙煎はとても優れています。
以下、欠点も挙げます。
これを欠点というか微妙なところです。というのも、コーヒーの焙煎は料理と一緒だと思うからです。一般的に外食や出来合いのものは、自宅で料理するより楽ではありますが高価になります。「世の中そういうもの」で、実はコーヒーについても全く同様なのです。焙煎を楽しむことができれば、それは「料理が趣味」というように、焙煎自体を楽しむことができるのではないでしょうか。
焙煎が進むにつれて、どうしても豆についているチャフと呼ばれる薄皮がはがれてきて、周囲に舞い散ります。これは過程で焙煎する場合はどの焙煎方法でも避けられないでしょう。掃除も含めての焙煎工程ととらえましょう。しかしハライチコーヒーが推奨する「水洗い焙煎」により、チャフの散布はかなり軽減することができます。「豆の水洗い方法」は下のリンクをご参照ください。
基本的な流れ
コーヒーの焙煎において、重要な指標となるハゼ(爆ぜ)についてまず説明いたします。ハゼには「1ハゼ」と「2ハゼ」と2種類のハゼがあり、それぞれ特徴があります。
1ハゼ | 2ハゼ |
---|---|
豆から炭酸ガスが放出された時の音 | 豆から出た油分が焼ける音 |
パン、ポン、パチ | ピチピチ、プチプチ、ビチビチ |
大きめの音 | 小さめの音 |
不規則的 | 規則的、雨音がだんだん強くなる感じ |
基本的には、このハゼの音を聞き、豆の色を確認しながら焙煎を進めていきます。煎り止め(火を止める)のタイミングが、焙煎度合い(浅煎り、中煎り、中深煎り、深煎りなど)に強く関わります。余談ですが、焙煎時間について。「この時間になったらこうして」…というものではありません。あくまで目安です。また、目的の焙煎度合いと経過時間を把握することで次回以降の焙煎の参考とするためのものです。
使用する道具
熱源
カセットコンロ、もしくは五徳のあるガスコンロが望ましいです。IHヒーターはガラス面が傷ついて故障の原因となるので避けましょう。カセットコンロの注意点は、ガスが切れていることに気づかず振り続けているなんてことがあります。ガスの残量を確認しながら、残量の少ないカセットを使用するときは入れ替え用のカセットをすぐ取り出せるところに用意(コンロからは離して置いてください)して、火が消えていないか注意を払いながら焙煎を進めていきましょう。
手鍋
最初は16cmの片手鍋を使うことをお勧めします。大体150g程度まで焙煎が可能です。慣れてきたら18cmの手鍋で200gの焙煎も可能です。
煎り上げ用ふるい
私はホームセンターで園芸用のふるいを600~700円で購入しましたが、家にあるザルで充分です。ただ、焙煎したての豆は200℃前後まで上昇しているので、プラスティック製だと溶けてしまいます。ザル等はステンレス製のものを使用しましょう。煎り挙げた後、チャフをしっかりふるい落としましょう。
冷却具
私はサーキュレーターを使用していますが、ドライヤーや、表に出て振りまくるという方法でもよいです。チャフが出ているので、その対策も必要かと思います。ドライヤーなど使う場合は、ふたをした状態で網を通して風を当てるほうがよいかもしれません。
タイマー
あればなおよいですが、なければ時計でも十分と考えます。時間はあくまで目安です。すぐ目に入るところにあればよいかと思います。ただ、キッチンタイマーは便利です。
換気設備
換気設備の下で行うようにしましょう。それでも部屋に焙煎のにおいがある程度充満します。ご家族がいれば、ある程度理解が必要かもしれません。最善の対策を試みてください。
鍋の振り方
鍋振りの基本 数回に1回の振り方 初心者は振るときにふたを手で軽く押さえて
鍋振りの基本は、水平に振ることです。五徳からは初心者はしっかり上にあげて(5cmくらい)振りましょう。豆がシャカシャカいうくらい少し大きめに振りましょう。また、10回に1回くらい中央の写真のように鍋を傾けて基本の水平の振り方をしてください。中の豆が循環するような動きをします。
特に初めて手鍋焙煎をされる方は、ふたを振らないほうの手で軽く押さえて振るとよいと思います。基本の水平の振り方ができていないとふたがあばれて落下したりします。慣れればなんてことはないのですが、それまでは火傷の原因となりますので、ふたを押さえながら焙煎を進めてください。焙煎前に豆を鍋に入れて練習することをお勧めします。
※片手鍋でフタが動きやすいタイプのものがあります。これは慣れた人でも難しいです。
習得していくためのステップ
まずは「中深煎り」から練習していきましょう。目標の煎り上がり時間は15分前後です。12分を切るようでしたら火力が強すぎ、もしくは鍋を五徳に置きすぎです。20分を過ぎてしまうようなら火が弱すぎ、もしくは鍋を振りすぎということになります。
さらになぜ「中深煎り」から始めるのがよいか。中深煎りは2ハゼの途中で煎り上げるのですが、一通り豆の状態変化を把握するのにもってこいです。中深煎りである程度安定して焙煎ができるようになったら、深煎り⇒中煎り⇒浅煎りと焙煎の幅を広げていってください。
また、使用する生豆ですが、最初は「ブラジル サントスNo.2」がおすすめです。浅煎りにはあまり適さないと思いますが、中煎りから深煎りまで、どの焙煎度合いでもバランスの良い豆です。さらに生豆の中ではとても安価ですので、練習するにはとても良い豆です。Amazonでも購入できますので、ぜひ気軽に挑戦されてはいかがでしょう。(松屋珈琲、1,336円/kg送料込、R3/8/15現在)
焙煎手順
予熱する 火力
ハライチコーヒーでは、予熱時間は2分と決めています。また、火力も「つまみの右淵が下から2段目の火力」と決めています。変数が増えないように火力は煎り上げまで変えていません。鍋を振る回数で温度調整をしています。火力は「中火と弱火の間」くらいが適切と思います。火力についてはそれぞれ決めていくしかありません。定量化するのが難しい要素ですので、そういうものを固定化したほうが安定した焙煎につながると考えます。
① 投入~2回振って3秒置く ② ふたに水滴が ③水滴蒸発後の豆の色 ④ シナモン色~1ハゼまでもう少し
「2回振って3秒置く」
振り方にもよりますが、ある程度コンロに置く時間を長めにしても大丈夫です(感覚的な話になってしまいますが…)。
① ガラスの表面にチャフが付き、くもりはじめる ② 1ハゼが鳴ったらふたを1秒開ける工程を追加する ③ 1ハゼが鳴らなくなってきます。
慣れるまでは「いつ鳴るんだろう」とドキドキしますが、火力が適切なら必ず起こります(火力が低すぎるとならないでそのまま2ハゼということも…)。パンという音が5~7回鳴ったら、②のふたを1秒開ける工程を増やします。温度の上昇を抑えるためです。しかしあまり長時間や頻回に開けすぎると、温度が下がってしまい、ハゼが起きなくなり、それをもって1ハゼが終了したと勘違いしてしまうことがあります。それには、煙の出方も観察する材料になります。煙の量が増えたり逆に減ったりした場合は、ふたの開閉による温度管理が適切でないといえます。煙の量を一定にして、1ハゼがおさまるまで継続して繰り返してください。豆にもよりますが、概ね2分程度で1ハゼは終了します。
ちなみに、1ハゼが終わるころに煎り止めすることで「浅煎り」になります。※この焙煎度合いの評価については人によって様々です。これはあくまでハライチコーヒー的考えに基づきます。
1ハゼが終わったら、ふたの開閉をやめ、再び温度上昇を促していきます。ただ、急激な温度上昇を抑えるため、「2回振って3秒置く」から「3回振って2秒置く」に切り替えます。1~3分で2ハゼが始まります。
このプロセスでの注意点は、2ハゼは1ハゼと比べなり始めがわかりにくいため、気づいたら2ハゼに入っていたということがあることです。また別のとらぶるとして、1ハゼの段階で温度上昇が進んでしまうと、同時に2ハゼが始まってしまっていることがあります。こういう時は焦らず、ステップ5に進んでください。
2ハゼの1回目が鳴ったタイミングで煎り上げると「中煎り」になります。
「3回振って2秒置く」 から「 ふたを開けて豆の色、ハゼの音を聞く 」を繰り返してください。音が壮大な拍手になってきたら(目安は30秒から1分)火を止めて、そのまま動作を繰り返してください。
①ザル(フルイ)にあける ②ふるってチャフを落とす ③冷却する ④完成 ⑥焙煎日と名前をわかるように そして、戦いの後のお片付け
ここでの注意点は、とにかく手鍋も豆自体も高温になっているので、火傷に気を付けてください。
まとめ
これで手鍋焙煎について、現時点での私の知識を概ね出し切らせていただきました。文章で見ると難しそうに感じるでしょうか。ただこれまでもお伝えしたとおり、コーヒーの焙煎は決して難しいものではありません。
生豆は通常3年はもちます。この点はお米の考え方に似ているかもしれません。焙煎豆は2週間を経過するとはっきり味が落ちてくるように感じます。ご飯もパンも、コーヒーも「焼きたて」がおいしいということでしょうか。ただ、コーヒーについては、少しお魚やお肉に近いところもあって、焙煎直後は味がいまいち(なぜかはわからないのですが、経験的に)なのです。
焙煎豆の色むらについてハライチコーヒーの考え方をお伝えします。焙煎の火力が強すぎることに起因する色むらについては改善をしなければなりません。しかし、通常コーヒー豆は数種類の品種が混ざっているものがほとんどです。また、豆の一粒一粒も全く一緒ということはないと考えています。そのような中、すべて同じ色で焙煎できるのはそれはそれで素晴らしいことですが、せっかくの手鍋焙煎です。適切な火力での自然の色むらは当然起こることは良しとしていい。色むらもそのコーヒーの個性の現れ。そう解釈してもいいと思っています。
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